ふくろう通信

平成24年 6月15日
米山 昌英

不二(ふじ)見えて
    あの世この世の若葉摘(つ)む (龍澤寺 中川宋淵老大師)


6月の初めに新聞と雑誌の切抜き記事を整理していて、「コーヒーの香り」が、がん予防と肝硬変に効果が有るという興味深い記事を見つけた。
サンフランシスコで開かれた米国化学学会で、研究結果を報告したのは、米カリフォルニア大学の日系研究者タカユキ・シバモト教授(環境毒物学)である。(平成9年5月の東京新聞より)

研究によると新鮮なコーヒーの香りには、がんの要因となるDNAの酸化や心臓の老化を妨げる、少なくとも三百種類の酸化防止化学物質が含まれ、効果はビタミンE、Cに匹敵するというのである。
教授は「コーヒーの体へのマイナス面ばかり昨今は、指摘されるが、長年世界各地で多くの人が愛好してきたのは、何か理由があるはずである。」と研究の動機を語っている。
ただし、この研究報告には、前提条件がつけられている。それは、コーヒーを淹れてから10~20分以内に限るというのである。

また九州大学の古野純典教授らを中心とする研究グループでは、コーヒーの愛飲者は、肝臓のγ- GPTという酵素の出方が、飲まない人に比べてぐっと少ないという研究成果を発表している。
毎日、日本酒を約一合強、純アルコールに換算して30ミリリットル以上を飲む人は、飲まない人に比較して、ガンマの数値が2倍になっている。しかし酒を飲んでいる人でも、コーヒーを毎日飲む人は、飲まない人に比べるとガンマ値がグッと低い。しかもコーヒーをたくさん飲む人ほど、ガンマの数値が低いというのである。私のようにコーヒーを生業(なりわい)としているもの、コーヒーの愛飲家には、誠に心強い研究発表である。

更に重要な研究結果を発表しているのが、米国のクラッキー、アームストロング両博士の共同研究で、92年に「米国疫学雑誌」に発表した「コーヒーが肝硬変を予防する可能性」の研究である。
民間医療保険組織「カイザー・パーマネンティ」の健康診断受験者、128,934人の追跡調査の結論は、一日に四杯のコーヒーを飲む人は、まったく飲まない人に比べて、肝硬変で入院あるいは、死亡する危険性は五分の一であるという驚くべき研究発表である。
難しい説明は省くが、つまりコーヒーをたくさん飲む人ほど、肝硬変にかかる人が少ないというのである。

一方、サンジェイゴで開かれた米がん研究学会では、「予防にはトマト、オレンジやパスタ、豆腐が役に立ちそうである。」という研究報告も出されている。食べ物とがんをめぐる話題は、ますます注目を集めそうだ。
そう言えば、映画の題名は忘れてしまったが、昔観た映画で、コーヒーのことでとても印象に残っているシーンを思い出した。
第二次世界大戦の下(もと)、ドイツの潜水艦Uボートが故障して漂流する。食料も尽き果て、遭難寸前という時、救助船に助けられる。物資が投げ込まれ、飢えた乗務員が次々に食べものを口に運ぶ。
助けられた乗務員が最初に飛びついたのは、パンでも肉でもなく、なんとコーヒーだった。おいしそうにコーヒーを飲む乗務員のアップになった横顔が、鮮やかに今でも思い出される。

当時、コーヒーにはまったく興味も無く、好きでもなかったが、あの映画のシーンだけは妙に印象的で忘れられない。
縁有ってコーヒーを商売とするこの道に入ってみると、コーヒーは単なる嗜好品を超えた必需品としての何かが有る。コーヒーの吸引力に心惹かれる思いで一杯である。コーヒーの香りを「いいな─。」と感ずるのは、やはりそれだけのものがあるのである。

このような新しい「コーヒー有益論」が出ることは、コーヒーを職業とする我々には、心強く、とてもうれしい事である。お客様の健康に貢献できる良い仕事を誇りに思わなくてはいけない。 当社のコーヒーは豆をその場でミルで挽(ひ)いて、一人前ずつ淹(い)れるという手の込んだ淹れ方をしている。その上、お客様に一番美味しく召し上がって頂く為に、「ネルの布淹れ」にこだわり続けているのだ。(一部の店を除く)

先日小田急百貨店の12階にあるマンハッタン店での出来事である。
私の席(私はお客様のつぶやきが聞きたくて、よく客席に座る)の隣に、女性三人のお客様がお座りになった。
コーヒーとケーキを注文された。ケーキはモンブランだった。コーヒーが出て、ケーキも届いた。お客様の反応が欲しい。書類の隙間からじっとお客様を観察した。お客様がコーヒーを口にした。
「美味しい!」と口元がささやいた。すると別のひとりが
「そうでしょう。」というように肯いた。どうやらこの方が、他の二人をお誘いして店に来たようである。

私はお客様のこういうときの笑顔が大好きである。もっともっと美味しいコーヒーを召し上がって欲しい。喜んで飲んでいるお客様に、「私がこの会社のオーナーです。」と名乗り出て、お礼が言いたいほどうれしいのだ。経営者にとって至福の時とは、こういうときの一刻(ひととき)である。

今回は難しい「コーヒー談義」になってしまった。情報として、知識として、是非、皆さんに知って頂きたいのです。

 

合掌




米山 昌英