ふくろう通信

平成24年 7月30日
米山 昌英

(もの)(い)えば涙にくもる
             盆の月 (幽翁・伊庭貞剛)


今年も先祖代々の精霊達とともに、亡き父と母、娘を迎えて我が家のお盆も無事に終わった。
お盆月を迎える頃になると、あれもこれもの想いが強く、為(な)すすべもない有様である。
今年も床の間に「延命(えんめい)十句観音経」の墨蹟(ぼくせき)を掛けて、香華を手向(たむ)け積年の想いを表すことが出来た。生かされている者にしか出来ない何よりも有難い報恩行である。
この「延命十句観音経」の墨蹟には、少しばかりの因縁がある。
かねてから七月の盆月には、娘の供養のために「延命十句観音経」の墨蹟が欲しいと思っていたが、なかなかその機会に恵まれなかった。

ある年、ロータリークラブの親友と一緒に、三島の沢地にある龍沢(りゅうたく)寺の中川球童老師をお尋ねした。運良く京都の表装屋が、仕上がったばかりの見事な墨蹟を三幅届けにきて広げているところであった。
連れの友人のたっての希望で、そのうちの一幅(いっぷく)を老師が快く譲ってくれることになった。
「米山さんも良かったら一幅お持ちなさい。」という老師のお言葉に甘えて、「ご老師!私には是非、延命十句観音経の一行書の墨蹟を書いて頂けませんか。」とお願いしてみた。
白隠(はくいん)禅師に所縁(ゆかり)の龍沢寺には「延命十句観音経」にまつわる色々な言伝えが残されている。
私の参禅の師、鈴木宗忠老師は「延命十句観音経ほど、有難いお経はないよ。何か困った時には、このお経を口の中で唱えると良い、と常々自分の師匠(山本玄峰老大師)から教えられた。」と何度も聞いたことがあった。

そういえば、龍沢寺では、朝課(ちょうか)のお経の最後は、「延命十句観音経」を三十三回読経(どっきょう)するのが習わしである。
田舎のお盆を知る者にとっては、7月のこの時期のお盆は、どうも季節外れな気がして情感が湧(わ)かない。
私の生まれ育った静岡の富士では、お盆が近くなると村の人たちが総出でお墓の掃除に精を出す。みんなが勤労奉仕である。
迎え火を焚(た)く日になると、それぞれが思い思いに、香華(こうげ)を手向(たむ)けて一族親戚のお墓を回って歩く。墓地は線香の煙とお参りする人で、まるで縁日のような賑わいである。
夜になると、隣近所が申し合わせたように、一斉に「迎え火」を焚いて先祖の精霊達をお迎えする。

お盆の由来は、正式には、「盂蘭盆(うらぼん)」と言うのだそうで、お釈迦(しゃか)様の十大弟子の一人に、神通力第一と言われた目連尊者という大変偉い方がいた。とても親孝行で優しかった目連(もくれん)尊者は、「亡き母はきっと極楽で幸せにしているだろう。」と自らの天通力を使って捜してみたが、何処(どこ)にも母の姿を見つけることができなかった。
なんと目連尊者の探し求めた母は、思いもしなかった「餓鬼道(がきどう)」に落ちて悶(もだ)え苦しんでいたのである。愕然とした目連尊者は、なんとか母を餓鬼道から救い出したい一心で、お釈迦様に
「どうしたら母を餓鬼道から救うことが出来るのでしょうか。」と教えを請(こ)うと「7月15日は、たくさんのお坊さんの雨安居(うあんご)(夏の修行)の修行が終わる日である。その多くの修行僧を供養してあげなさい。そして回向を頼みなさい。」といわれた。
目連尊者は、いわれた通りに修行の終えた沢山の修行僧の両足を自ら洗って供養し、百味、百果の食べものを用意し、僧侶達に回向を頼んだ。そして、供養が終わると集まった大勢の人々に、供え物を食べて頂き施しをした。
このような孝順心をもって尊い布施をすることによって、目連尊者の母が餓鬼道から救われた機縁が、お盆の由来であると伝えられている。(以上臨済会発行の「法光」より

ところで私は、六人姉兄の三男に生まれた。不思議な因縁(いんねん)によって、
50歳を過ぎて先祖の墓守(はかもり)をすることになった。別に望んでそうなった訳ではない。やはり宿縁(しゅくえん)によってそうなったものだと、今は有難く思っている。
こういうことは、自らがしゃしゃり出てするものではないが、どうしてもと請(こ)われて見れば断わるすべもない。
必然というものである。

例年のことだがお盆の期間中は、特に念入りに読経する。六代の先祖とこころざし半(なか)ばで夭折(ようせつ)した精霊達の戒名(かいみょう)を読んで回向(えこう)する。送り火の16日の朝は、妻と一緒に「延命十句観音経」を詠んで、送ることを常としている。
お盆・春秋のお彼岸(ひがん)行事は、先人が残した先祖を崇(あが)める尊い習慣であり文化である。不思議な因縁によっていま生かされている我々が、只(ただ)ひたすら生かされているご縁に感謝し、先祖に想いを致し、先祖の墓参りをする功徳を、こういう機会に改めて考えてみることも大切である。


 

合掌




米山 昌英