ふくろう通信

平成24年11月20日
米山 昌英

禅院のあっけからんと
          冬支度 (三島 龍澤寺 中川 宋淵老大師)


心に残る素敵な本に出会えるというのも、誠に有難いご縁といわなければならない。
安岡正篤先生の言志禄によると、いい機会、いい場所、いい人、そしていい書物に出合うことを「多逢勝因」と言うのだそうであるが、私が出会ったとても心に残るいい本について書いてみたい。

「エクセレントカンパニー」(T・Jピーター 大前研一訳:講談社)、「 凡事徹底ぼんじてってい(鍵山秀三郎著:致知出版社)、「 蜜多窟提唱みつたくつていしょう 中川 宋淵そうえん(龍沢寺蔵版:非売品)、の三冊である。
エクセレントカンパニーは、今は亡き経営コンサルタントの一倉 さだむ先生に教えて頂いた。

アメリカの超優良企業といわれるIBM、デルタ航空、マクドナルド、ヒューレット・パッカード、ボーイング、ジョンソン&ジョンソン、フリト・レイ社等が、自分達の商売を「サービス業である。」と定義して、お客様に徹底して満足していただくために、並外れた努力を繰り返しながら、サービス第一主義を、すべての人々が肌身に感じて知ることが出来るところまで高めている、というのである。
またある企業では、「寝ても覚めても、食べる時も、呼吸する時も、とにかくお客様のことだけを考えている。」という表現で説明しているのである。
フリト・レイ社の例を本文より引用してみよう。

― ポテトチップを売るこの会社の取引先は、モンタナ州ミズラーといった山奥にある家族経営の小売店であろうと、カリフォルニア州オークランドの大スーパーマーケット、セイフエイであろうと、平等に一日一回フリト社のルート担当セールスマンの訪問を受ける確率が99.5%である、というのだ。いわゆる「99・5%パーセントサービスの水準保持」といわれる神話である。― (以上エクセレント・カンパニーより)

全編550頁に及ぶこの分厚ぶあつい本の素晴らしいところは、洋の東西を問わず優れた企業が、お客様のためには、如何なる落度も耐え難く感じ、理不尽とも言えるほど品質、信頼性、サービスに力を注いでいる姿を、次々に懇切丁寧こんせつていねいに余すところなく示してくれるところにある。何回読んでも手元に置きたい必須の本である。
「凡事徹底」は株式会社ロイヤルの鍵山かぎやま社長さんが、三十年余にわたり掃除をやり続けて、今日こんにちの会社を創られた誠に頭の下がる非凡な実戦経験の講演・対談集である。
なかでも企業家養成スクールで講演した「いい縁をつなぐ」を収録したところは、是非、会社の若い従業員の皆さんにも味読みどく頂きたいところである。 とても味わい深い文章ですから一部抜粋しておきました。

― 人の縁というものは、一人で出来たり、勝手につながって出来るものではない。つくりたいという人の明確な意思がなければつくれないものであり、繋ごうという気持ちをいつも持ち続けていないと繋がらないものである。
一方、いい人との縁は、放っておくと日増しに薄くなっていく。反対に悪い縁は、放っておくとどんどん強くなって来る。
いい人の縁をつくり、結んで行くには、やはり自分自身がいつも感謝の気持ちを持っているかどうかが、大切な第一歩になる。感謝の気持ちの無い人は、絶対に良い縁を結ぶことが出来ない。
更に、いい縁と言うのは、必ず前からやって来る。反対に悪い縁は、後ろから忍び足でやって来て、背中におおかぶさるようにくるので、なかなか避けられない。 ではその縁をよくしていくためには、どうしたらいいのかと言うと、良く気づく人間になることである。それには、掃除を徹底してやって頂く以外には無い。掃除という行を通じて「他人の痛みのわかる人間」になって頂くほか無いのである。― (以上縁をつなぐより引用) 

さて、三冊目の本「蜜多窟提唱 中川宋淵」は、宋淵老大師十三回忌、宗忠老大師七回忌を記念して、龍沢寺が刊行した貴重な非売品である。昭和57年6月の新禅堂完成を記念して、開単報恩大接心会(6/18~6/24)にご老師が提唱された「臨済録りんざいろく」を集大成したものである。
正装単坐して拝読すると、在りし日のご提唱のお姿がまぶたに浮かび、老婆親切が身にしみ通る。
宋淵・宗忠老大師のご健在の頃は、谷中の全生庵ぜんしょうあんで開かれる正修会しょうしゅうかい(毎月28日夜6時)には、かなり熱心に参加した。膝を痛めてからはなかなか思うように坐ることが出来なくなってしまった。何もかも夢のように懐かしくひたむきな時期であった。
どうに厳しく、正法しょうぼうをこよなく愛した一言一句に吐露とろされたご老師の暖皮肉だんぴにくを思うと、只今ただいまの今の己の怠慢たいまんに恥じ入るばかりである。
今年もあと一ヶ月有余となってしまった。何もかもが早過ぎる。
くれぐれもお体を大切に、悔いの無い毎日を過ごしましょう。

合掌




米山 昌英